2009年08月05日

太宰治「斜陽」

いつまでもお母さまのうしろに立っていて、おしまいにはお母さまのしずかな呼吸と私の呼吸がぴったり合ってしまった。


 私は急に楽しくなって、ふふんと笑った。機(おり)にかないて語(かた)る言(ことば)は銀(ぎん)の彫刻物(ほりもの)に金(きん)の林檎(りんご)を嵌(は)めたるが如(ごと)し、という聖書の箴言(しんげん)を思い出し、こんな優しいお母さまを持っている自分の幸福を、つくづく神さまに感謝した。ゆうべの事は、ゆうべの事。もうくよくよすまい、と思って、私は支那間の硝子戸越しに、朝の伊豆の海を眺め、いつまでもお母さまのうしろに立っていて、おしまいにはお母さまのしずかな呼吸と私の呼吸がぴったり合ってしまった。
[初出]『新潮』昭22年7〜10月号

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posted by 北田信 at 23:37| 斜陽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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