2009年10月29日

太宰治「冬の花火」

いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう?


 あたしは今の日本の、政治家にも思想家にも芸術家にも誰にもたよる気が致しません。いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう? そんならそうと正直に言えばいいのに、まあ、厚かましく国民を指導するのなんのと言って、明るく生きよだの、希望を持てだの、なんの意味も無いからまわりのお説教ばかり並べて、そうしてそれが文化だってさ。呆(あき)れるじゃないの。文化ってどんな事なの? 文(ぶん)のお化(ば)けと書いてあるわね。どうして日本のひとたちは、こんなに誰もかれも指導者になるのが好きなのでしょう。
[初出]『展望』昭21年6月号

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posted by 北田信 at 22:27| 冬の花火 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月20日

太宰治「新ハムレット」

僕は、このとしになって、やっと、世の中に悪人というものが本当にいるのを発見した。


 僕は、はじめ、ポローニヤスの朗読劇を、娘可愛さのあまり逆上して、王や王妃に、いや味を言うための計略、とばかり思っていたが、ゆうべまた、よく考えてみたら、どうもそればかりでも無いらしい。あの人たちのする事は、一から十まで心理の駈引(かけひ)き、巧妙卑劣の詐欺(さぎ)なのだから、いやになる。僕は、ゆうべ、やっと判(わか)って、判ったら、ぎょっとした。あの人たちは、おそろしい。一つも信用出来ない。此の世の中には、やっぱり悪い人というものがいたのだ。僕は、このとしになって、やっと、世の中に悪人というものが本当にいるのを発見した。手柄(てがら)にもなるまい。あたりまえの発見だ。僕は、よっぽど頭が悪い。おめでたい。いまごろ、やっと、そんな当然の事を発見して、おどろいている始末なのだから、たいしたものだよ。底の知れない、めでたい野郎だ。
[初出]文芸春秋社刊・昭16年7月

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posted by 北田信 at 21:38| 新ハムレット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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