2009年10月29日

太宰治「冬の花火」

いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう?


 あたしは今の日本の、政治家にも思想家にも芸術家にも誰にもたよる気が致しません。いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう? そんならそうと正直に言えばいいのに、まあ、厚かましく国民を指導するのなんのと言って、明るく生きよだの、希望を持てだの、なんの意味も無いからまわりのお説教ばかり並べて、そうしてそれが文化だってさ。呆(あき)れるじゃないの。文化ってどんな事なの? 文(ぶん)のお化(ば)けと書いてあるわね。どうして日本のひとたちは、こんなに誰もかれも指導者になるのが好きなのでしょう。
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posted by 北田信 at 22:27| 冬の花火 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月17日

太宰治「冬の花火」

人間は皆、自分の毎日の生活に触れて来たものだけを考えて、それで一ぱいのものだわよ。


 嘘、嘘。もうその辺からみんな嘘ね。男のひとって、なぜそんな見え透いた嘘をつくんだろう。ご自分の嘘がご自分に気附いていないみたいに、大まじめでそんな嘘を言ってるのね。あたしが東京へ行って、あなたの事を忘れてしまっていたように、あなただってそうなのよ。あたしと浪岡の停車場で別れてそれからずっと十年間もあたしの事ばかり思っているなんて事は、出来るわけは無いじゃありませんか。人間は皆、自分の毎日の生活に触れて来たものだけを考えて、それで一ぱいのものだわよ。自分の暮しに何の関係も無い、遠方にいる人の事なんか、たまあにはね、思い出す事もあるでしょうけど、いつのまにやら忘れてしまうものだわ。
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